風俗店通いは不貞にあたるか

「不貞な行為」(民法770条1項1号)は、離婚事由になるほか、慰謝料原因にもなります。

ここで問題になるのが、そもそも「不貞な行為」(不貞行為)とは何かということ。

一般的にそれは肉体関係を持ったことを指すと考えられており(最高裁判所昭和54年3月30日判決民集33巻2号303頁等参照)、キスや手を繋いだだけでは不貞にはなりません。

なお、肉体関係にあたるか微妙な例というのもあるのですが、それはまた別の機会に。

性風俗店の利用は不貞行為にあたるのでしょうか。

不貞にあたる場合もある

先に結論めいたことを申し上げると、不貞行為にあたる場合があるというのが裁判例です。

少しもやっとしてしまうのですが、全てが不貞にあたる、あるいは全てが不貞にあたらないというわけではないようです。

まずは肯定例です。

東京地方裁判所平成15年9月11日判決は、原告(離婚を求めた側)のソープランド通いが不貞行為にあたるとして、原告(有責配偶者)からの離婚請求を棄却しています。

東京地方裁判所平成17年6月24日判決は、「被告は、平成9年2月及び平成13年5月か同年6月ころ、ソープランドへ行ったものと認めることができ、被告の行為は、原告との関係で、不法行為にあたるというべきである」として、被告に慰謝料の支払を命じています。

東京地方裁判所令和3年1月18日判決は、ホテルヘルス店従業員と男性客との間で性行為が行われた事案に関するものですが、「風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが、直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く」としています。

東京地方裁判所令和3年11月29日判決は、「ピンクサロンが性的なサービスを提供する風俗店であることは被告本人も認めるところであるが(被告本人尋問)、被告が実際に同ピンクサロンで性的サービスを受けたかどうか、受けたとしてそのサービスの内容がどのようなものであったかについては、これを認めるに足りる的確な証拠がない。したがって・・・これをもって被告に不貞行為があったとは認められず」として、慰謝料請求を棄却しています。

すなわち、ここで挙げた裁判例は、ソープランドについてのみ不貞と認めているものですが、いずれの裁判例も上記の結論に至るまでに様々な事実を拾い上げています。

そのため、簡単に「ソープランドは不貞にあたる、それ以外は不貞にあたらない」と割り切るのは危険です。

ここでの結論としては、性風俗店で性行為が行われた場合には、不貞行為にあたると判断される可能性があり、かつソープランドの場合にはそう判断されやすいということになります。

風俗店従業員に対する慰謝料請求はハードルが高い

不貞にあたる場合、次の問題としては、性風俗店を利用した男性客の妻は、風俗店従業員に対して、慰謝料請求等をできるのでしょうか。それとも、あくまで夫に対してのみ慰謝料請求等をできるに留まるのでしょうか。

これについては、一つの参考として、いわゆる枕営業に関する裁判例を挙げさせてください。

東京地方裁判所平成26年4月14日判決(判例タイムズ1411号312頁)が有名です。この判決は、「クラブのママないしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが「枕営業」であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、そのことを知った妻が精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」としています。

他方で、東京地方裁判所平成30年1月31日判決は、「仮に,いわゆる「枕営業」と称されるものであったとしても,被告が亡○○と不貞関係に及んだことを否定することができるものではないし,仮に,そのような動機から出た行為であったとしても,当該不貞行為が,亡○○の配偶者である原告に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害行為に該当する以上,不法行為が成立するというべきである。」としています。

要するに、枕営業に関して、正反対の判断を下している裁判例が存在するということになります。

ただし、二つ目の平成30年判決は、「仮に・・・枕営業・・・と称されるものであったとしても」と述べており、実態としては、この件は枕営業ではなく通常の男女の交際だったとみている節もあります。

ところで、一つ目の平成26年判決は、ソープランドについて言及しており、どうやら、ソープランドの従業員女性には不法行為が成立しないという前提の下で、クラブのママないしホステスの枕営業についても、「対価が直接的なものであるか,間接的なものであるかの差に過ぎない」として、同様に考えて、責任を否定しているようです。

そうだとすると、二つ目の平成30年判決があるとしても、基本的にはクラブのママ・ホステスに、不貞としての責任を認めることに、裁判所は慎重であると見受けられます。

より仕事と性行為との距離の近い風俗店従業員については、裁判所は不貞としての責任を認めることに、さらに慎重なのではないでしょうか。

その後に出た裁判例として、風俗店従業員に対する慰謝料請求を否定しているものが存在します。

東京地方裁判所令和3年1月18日判決は、「本件性的サービスは、性的サービスの提供を業務とする店舗の従業員と利用客という関係に基づいてなされたものであり、その際になされた性交渉も、被告と○○の従業員と利用客という関係を超えてなされたものとは認められない。そして、風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが、直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く、仮に、婚姻共同生活の平和を害することがあるとしても、その程度は客観的にみて軽微であるということができる。そうすると、仮に、被告と○○との間でなされた本件性的サービスの際の性交渉が、原告の婚姻共同生活の平和の維持を侵害し、不貞行為に当たり得る面があるとしても、それにより、原告に、金銭の支払によらなければ慰藉されないほどの精神的苦痛が生じたものと認めるに足りない。」として、請求を棄却しています。

そのため、夫の風俗店通いを発見した場合でも、基本的には、風俗店従業員に慰謝料請求するよりも、夫に対して慰謝料請求等をすることに注力された方がよいと思われます。

(ただし、最初は客・店員として知り合ったものの、その後で普通の男女の交際関係になった場合には、慰謝料請求は認められることになります。)