ネットで離婚のことを調べると、「公正証書」という言葉が出てくることがあります。
何かというと、分かりやすく(多少不正確ですが)表現するならば、今回の文脈では「強い契約書」のことだと思っていただいたら大丈夫です1。
合意について
AさんがBさんに対して、二人の間のお子さんの養育費として、月4万円を支払うという合意をしたとします。
それは、口約束であっても基本的には有効です。
ただし、言った・言わないになっても困るということで、他の離婚条件と合わせて、二人の間で書面(合意書等)にすることがあります。
それでは、口約束しかなかった場合、あるいは(後で説明する強制執行認諾文言付き公正証書以外の)単なる合意書を作った場合に、Aさんが支払わなくなったときにはどうなるでしょうか。
話し合っても支払われない様子ならば、基本的には調停を申し立てることになります。
調停では養育費の額は4万円のままとなることもあれば、それより金額が上がったり下がったりすることもあります。調停で合意ができず審判になった場合も同様です。
そして調停が成立したものの、それでもAさんが支払わない場合には、調停調書を債務名義として(家事事件手続法268条1項)、強制執行(給与の差押え等)の手続に入っていくことになりそうです。なお、「債務名義」という言葉もまた聞き慣れないものですが、一旦は、強制執行のために必要な書類と考えていただいたら大丈夫です。
要するに、口約束だった場合も単なる合意書だった場合も、基本的には、調停をしたうえで、強制執行をしなければならないということになります。
言い方を変えると、裁判所の手続が2つ必要です。
(※この流れはあくまで一例であり、異なる流れになる場合もあります。)
調停で取り決めていた場合
これに対して、口約束や単なる合意書を経ずに、最初から調停で取り決めていた場合、不払いがあった時点で再度調停をやる必要はありません。
調停調書をもって、いきなり強制執行の申立てができることになります。
公正証書があった場合
公正証書は最初に述べた通り、いわば強い契約書です。
どのように強いかといえば、強制執行認諾文言付き公正証書であれば、 法律上は、確定判決と同じように債務名義として認められています(民事執行法22条5号)。
すなわち、公正証書の内容等にもよりますが、調停を経ないで、いきなり強制執行の申立てができるということになります。
言い方を変えれば、裁判所の手続が1つです。
公正証書はどうやって作るのか
公正証書をどうやって作るかというと、公証人という専門職がいる公証役場というところに行って、手数料を支払って、作ることになります。
公証役場には基本的には二人で行っていただく必要があります。ただしそれを代理人に委任するということも手続的には可能です。
裏を返せば、Aさんが公正証書作成を拒絶していて、その意思が揺るがない場合には、公正証書は作れません。そのようなAさんの対応が分かっているならば、最初から公正証書作成を目指すのではなく、調停を申し立てるべきかも知れません。
なお、専門職が作るとはいえ、公正証書の内容によっては、後々不利になったり、一方が意味内容を誤解していて後々トラブルになったりということも珍しくありません。できれば作る前に弁護士に相談いただきたいです。
また、当事者の一方からご依頼いただいて、弁護士が文案(公正証書作成のたたき台)を作成することもあります。
公正証書が一度作られてしまうと、後からそれを覆すのは、容易ではありません。そして公正証書の内容は、一言一句がとても重要です。
例えば養育費の支払を「子の大学卒業まで」という書き方をしている公正証書があったとすると(滅多に見かけませんが)、一般的なイメージとしては、22歳に達した直後の3月までということになるとしても、文言上は、お子さんが25歳になってから大学に入り直した場合もその卒業時まで支払うということになり得ます。
なお、養育費だけでなく面会交流の内容に関しても、その記載の仕方は無数にあります。その中のどの内容にするかによっても、面会交流の内容は大きく変わってきます。
公正証書にできる内容とできない内容
公正証書は専門職が作る文書ですので、公序良俗に反する内容は認められません。
例えば、「甲と乙は今後生涯にわたって再婚しない」「甲と乙は離婚後も他の異性と交際しない」といった内容は、よほど特別な事情がない限り公序良俗に反するものであって、公正証書に含めることはできないものと解されます。
公正証書にする必要に乏しいもの
じゃあ何でも公正証書にした方がいいのかというと、そうとも言えません。
例えば、二人で離婚することに合意しました、子どもはいません、離婚前に一方から他方に財産分与として100万円を既に支払いました、慰謝料原因はありません。年金分割の手続も既に行いました。
こんなケースですと、支払があった後で公正証書を作ったところで、強制執行するものもないでしょうから、あまり意味がありません。
そうは言っても、何も書面を作っていないと、後で相手から何か請求される(金銭を支払え、あるいは支払った金銭を返還せよ)おそれはあるので、何らかの合意書(公正証書でない単なる合意書)は作っておいた方がいいとは思いますが。
他方で、最初に例として挙げた、養育費が関連する事案や、財産分与や慰謝料の支払がその後で予定されている場合ですと、公正証書があった方がいいとは思います。
なお、調停が成立した場合には、調停調書にも上で述べた通り強い効力が認められているため、基本的には、それと別に公正証書を作ることはありません。
公正証書と調停調書の違い
強制執行認諾文言付き公正証書と調停調書は、どちらも強制執行を行う際の債務名義になるという点では似ていますが、弁護士会照会(23条照会)を行う際等に違いが出る場合もあります。
またそもそも、夫婦関係調整調停(離婚)は調停成立により離婚の効力が生じますが、公正証書はその前または後で離婚届出をしないと、離婚の効力は生じません。
そのため、そもそも公正証書作成を目指すのかどうかというのも、戦略を立てる必要がある部分です。
事情変更が生じた場合
公正証書を作成した後で事情変更が生じるということはよくあります。
一番わかりやすい例でいくと、養育費を受け取っている側が再婚し、再婚相手とお子さんが養子縁組をして、養育費を支払っている側の扶養義務が二次的なものになったような場合です。
この場合も、だからといって養育費の支払を一方的に中止するべきではなく、基本的には、協議・調停等により、元の公正証書の当該箇所の効力を失わせることが必要です。
- 正確には、「私人(個人又は会社その他の法人)からの嘱託により、公務員である公証人がその権限に基づいて作成する公文書」(※日本公証人連合会の説明)のことを指します。契約書以外のものも公正証書にすることが可能であり、有名なものとしては公正証書遺言がありますが、それ以外にも様々な類型があります。 ↩︎
